ショートメッセージ#33 執筆担当:山形宣洋(関東地区副責任主事)
「あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。わざわいの日が来ないうちに、また「何の喜びもない」と言う年月が近づく前に。」(伝道者の書12:1・新改訳2017)
伝道者の書はこう始まります。
「空の空。伝道者は言う。空の空。すべては空。」(1:2)
「空」と訳される言葉は蒸気を意味します。この世界も、私の人生も、全ては蒸気のようだと語るのです。
実際、私たちは楽しい時間を過ごしても、それがいっときの儚い時間であることを知っています。夢心地になっても、途端に空しく思うことがあります。
伝道者は、人生とはそういうものだ、と語るのです。ところが「だから人生に意味はない」とは言いません。
「あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。」(12:1)
人生は儚く空しいから、一刻も早く、あなたとこの世界を造られた創造者を認めよ!なぜなら、これまで出来ていたことはやがて出来なくなり、私たちは必ず死ぬからです(12:3-6)。
大切なのは、空の空とは、否定的な言葉ではないことです。伝道者は、蒸気のような私たちの人生を否定しません。その上で、最後に残るものは何かを語ります。
「土のちりは元あったように地に帰り、霊はこれを与えた神に帰る。」(12:7)
若い日に創造者を覚えるとは、帰る場所は神のもとだ、と知っていることです。そして伝道者はいつものように語ります。
「空の空。伝道者は言う。すべては空。」(12:8)
どんな思いで再び「空の空」と、語りかけるのか。13節を読むことで、伝道者の思いを探れます。
「結局のところ、もうすべてが聞かされていることだ。神を恐れよ。神の命令を守れ。これが人間にとってすべてである。」(12:13)
伝道者の書全体のメッセージが、13節の「結局のところ」からだと考えると、「空の空であると悟ることから、神を恐れる人生が始まる」と理解できます。
若い時の喜びを経験しながらも、それができなくなる老齢期を味わい、死を迎える著者は今、全ては空の空であると知りました。興味深いのは、著者は失っていく経験を、希望として語っている点です。空しさ、儚さを知ることで、神を恐れることが間違いないと確信したからです。
イスラエルの民は、そのことを経験した民でした。神がモーセと結ばれた契約を民は破棄し、その結果、この身に呪いをもたらしたからです。バビロンに捕囚される痛みを経て、やはり、神を恐れることは確かなことだ。神の命令を守ることが、どれほど意味のあることか。伝道者はその確信を示し、これこそが知恵だと語る。
新しいことではありません。私たちも、伝道者の言葉に「アーメン」と言える経験を持っています。礼拝に集うとは、神を恐れること、神の命令を守ることが空の空でないことを知っているからです。
「神は、善であれ悪であれ、あらゆる隠れたことについて、すべてのわざをさばかれるからである。」(12:14)
神は、私の一挙手一投足全てをご存知である。粗探しをしたいのではありません。祝福を与えたいのです。神の祝福を選び、それによって神を恐れることを知って欲しい。イスラエルの歴史を、反面教師として学んでほしい。だから、イスラエルにとって都合の良くない歴史が、旧約聖書にこれほど記されているのです。
これまでは私たちも、自らの身に呪いを招くことで、神を恐れることを知った民だったかもしれません。しかし、これからは違います。神の祝福の中で、空の空なる人生を歩むことができるのです。
私たちも語り部の伝道者のように、空の空であることをわきまえて、神を恐れて生きる空の空は、決して悪くないことを、残りの生涯において知っていくのです。